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鬼ヶ島の夜は冷えていた。 和の国の冬を思わせる、芯まで染みるような寒さだ。 ヤマトは一人、月を仰いでいた。 胸の内にあるのは、いつもの言葉――「僕は、おでんだ」。 父に与えられた名でも、血でもない。 処刑される間際まで笑っていた男の背中に、心ごと焼き付けられた名だ。 (……おでんは、“男”だ) “彼”はこれまで、何度も言ってきた。 自分に言い聞かせるように、世界に叩きつけるように。 その夜、違和感は突然やってきた。 最初は気のせいだと思った。 疲労か、寒さか―― あるいは高鳴りすぎた心臓のせいだと。 だが確かな“変化”は、否応なく現実を突きつけてくる。 「え、ち、ちょっ、待ッ……!!」 焦りに声が裏返る。 いつの間にか股間に生えていた男性器を見て、ヤマトは一瞬言葉を失った。 (――じょ、冗談だろ?) これまで自分が口にしてきた“覚悟”。 ならばと世界のほうから、そのまま返されてしまったかのようだった。 頭が、真っ白になる。 心臓が、早鐘を打つ。 「ちが……いや、違わなくも、ないのか……?」 否定しようとして、言葉が続かない。 僕は、おでんだ。 そのおでんは、本当の男だ。 そう言い続けてきたのは、自分自身なのだから。 「……まあ、僕がおでんだって言い続けた結果なら」 しばらく呆然としたあと、ヤマトは大きく息を吐いた。 混乱は消えない。 けれど、...